寺田寅彦ガイド①‐ようこそ寺田寅彦の世界へ

石に掘られた天災は忘れられたる頃来る

 「天災は忘れられたる頃来る」‐多くの方がこの言葉を耳にしたことがあるでしょう。われらが「寺田寅彦」の言葉です。寺田寅彦(1878ー1935)は明治・大正・昭和に活躍した物理学者であり、また多くの作品を残した随筆家でもあります。文豪・夏目漱石と師弟関係にあり(実態は兄弟分に近い)、『吾輩は猫である』の水島寒月先生や『三四郎』の野々宮宗八のモデルともなりました。物理学者として「尺八の音響学的研究」や「椿の花の落下の研究」など独自のテーマを追求する一方、1923年に発生した関東大震災では、被災地・東京の街を歩き火災旋風の調査を行うなど災害予防研究にも尽力しました。「天災は忘れられたる頃来る」はこのときの経験やそのころ頻発した災害への考察の中から生まれたものです。そういえば、災害が多発する今日、その言葉を耳にしない日はないほど日常的に使われている「防災」と言う言葉を生み出したのも寺田寅彦であると言われています。

 このように物理学者としてさまざまな分野で活躍した寅彦ですが、その一番の魅力はなんと言っても随筆家としての寺田寅彦でしょう。多くの人が知る寅彦のイメージも文筆家・随筆家としてのそれにちがいありません。その透徹な頭脳で縦横無尽に書いた随筆は58年の生涯でおよそ300作品。比較的年配の方には「学校の教科書で読んだよ」というひとも多いのではないでしょうか。短編映画を観るかのような初期の美しい小説、独特の観察眼で世事を鋭くえぐる社会派(?)随筆、独自の自然観をふんだんに盛り込み、その嚆矢ともいわれる科学随筆、今の時代、絶対に読んでおきたい災害随筆、そして少年時代を回顧する晩年の郷土随筆などなど魅力的な寅彦作品は枚挙にいとまがありません。わたしたちの前にはこのように広くて深い寅彦ワールドが広がっているのです。ところがどうでしょう。最近では教科書に採用されることもなくなったため「寅彦作品を手にするきっかけがない」というひとも少なからずいるのではないでしょうか。実際「名前は知ってるけど、読んだことはないな」というひともいるでしょう。いやいや、もしかしたら「名前もしらない」というひとの方が実は多いのかもしれません。

 わたしたちは寺田寅彦博士の生誕150年(2028年11月)を祝して、その魅力的な生涯を「NHK朝の連続テレビ小説」に取り上げてもらうことを目指しています。そのためには、ひとりでも多く方に寺田寅彦のことを知っていただかなければなりません。寅彦先生の魅力を知るにはその随筆を読むのが一番!ということで、このコーナーは初めて寺田寅彦に接する人にもその魅力を存分に感じてもらい、寅彦作品を読むきっかけとしていただくために設けました。おすすめの読書コースや作品紹介など、みなさんを寅彦随筆に誘い、寅彦先生を身近に感じていただくための情報を紹介しています。いわゆる「聖地巡礼」というものもしてみようと思います。「寅彦の随筆って案外読みやすいんだな」とか「なんてロマンチックなお話なのかしら」、いや、もっとストレートに「めちゃめちゃ面白いじゃん!」などと思っていただけたら、こんなにうれしいことはありません。もしも寅彦随筆の魅力にはまってしまったら…?そのときは、私たちと一緒に「朝ドラ化」を目指しませんか!ようこそ寺田寅彦の世界へ! 

肖像画像の出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」 (https://www.ndl.go.jp/portrait/)

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